はじめに
私はマツダのCX3に載っています。2015年に購入しましたので、そろそろ11年ほど乗っていることになります。(今年別の車に買い替える予定ですが・・)

私はマニュアル制作に携わっていた頃、自動車メーカーのお仕事も多くさせていただいておりました。メーカー名や携わった車種についてなどはここでお話しすることはできませんが、長く経験してきたことにより、自動車業界の表も裏もよく知っています。そして、自動車業界におけるマニュアルについてもよく知っています。
自動車業界におけるマニュアルというものは大きく分けると3つあります。
- 自動車の取扱説明書(自動車所有者向け)
- 自動車部品の取扱説明書(自動車所有者向け)
- 自動車のサービスマニュアル(ディーラーの整備士向け
上記については、その自動車が発売される3年前くらいからは準備が始まっています。その間、いろいろな紆余曲折が発生します。部品の仕様変更、自動車そのものの名称変更などなど。過去の経験では、別の自動車名で取扱説明書を作っていたのに、世の中への発表直前に名前が代わってしまい、取扱説明書内のあらゆる箇所を修正しなければいけなくなった、ということもありました。
で、上記マニュアルを作っている際に、実際の試作車を見て、分解などもして、イラストを書いたりしていくのですが、海外で生産している車などの場合、試作車が日本になく、図面だけでイラストを作らないといけない、なども発生します。実はこれ、よく起こります。
ですので、車は見たことない、図面しか見たことない、という状態でマニュアルを作ること、結構あるんですよね。
また、平面の図面はあるけれど、CADデータなど、立体的に見ることができるものがない、ということもよくあります。とくに2010年代前半などはほぼそれでした。ただ、この5年くらいの間には、だいぶ早い段階で車全てのCADデータができていて、それを使って各イラストを書くことができる状態になっていきましたので、楽になってきた、ということはありました。
逆に言えば、それ以前には、自動車のマニュアルのイラストなど(テクニカルイラストと呼ばれます)を書くイラストレーターの方は、平面図面から立体的な様子を想像して書いていたということです。頭が下がりますよね・・。
このような状態が日常茶飯事だったので、マツダが自動車の取扱説明書を電子化してWEBで見れるようになり、また自動車のビジュアルを動かしながら各部位の説明を見れるようにしたことには、衝撃を受けました。
ビジュアル検索を盛り込んだマツダの英断
著作権の問題もあり、マツダの取扱説明書の内容をここで見せることはできませんが、マツダのCX3の電子取扱説明書のURLは貼り付けておきます。
まずビジュアル検索として、左にCX3の画像、右に車内の画像が出てくるのを見ていただけるかと思います。
また、左のエクステリア、右のインテリア、などの文字をクリックすると、それぞれの画面が大きくなり、また、出てきた画像を自分で動かすこともできます。
ここで自分が気になっている部位をクリックすると、そこに関連する内容が表示され、またその中でさらに気になるところをクリックすると、内容が見れる、などの動線になっています。
車に乗っていて、正直取扱説明書を見る機会というのはほぼないと思います。そのくらい、自動車は感覚的に運転できるようにできています(もちろん運転免許を持っている、その知識があるという前提ですが)。
ただ、たとえば、メーター部分に急に不思議なマークが出てきた、なんか交換しないといけない?故障した?などと焦ってしまいますよね。
こんなとき、自動車のグローブボックスに入れている分厚い取扱説明書を開いても、どこを見ればいいのかよくわからない、となるんですよね。
また、WEBに取扱説明書が掲載されるていることは10年くらい前からは普通になりましたけれど、紙のマニュアルをPDFにしたものがそのまま載せてあるだけ、ということもあり、それであれば、結局はどこを見ればいいのかわからないですよね。
詳しい人であれば、「インテリア」の部分を探したり、索引で表示灯の部分を探したり、などができますが、自動車に詳しくない人では難しいです。
そんなとき、このマツダのようなビジュアル検索ができれば、直感的に対象箇所を見つけることができます。
こういったマニュアルを作ること、当時は、マニュアル制作者にとっては夢だったんですよね。
ただ、はじめに、で書いたような問題があったから、できなかったんです。
つまり、
マニュアルを制作するタイミングで、自動車メーカーの方で自動車全体のCADデータ(正確なもの)ができていない
から、このようなビジュアル検索を組み込むことができなかったというわけです。
さらにいいますと、今は仕組み的に「紙での取扱説明書」も作って、車に入れておく必要があります。(今の状況は詳しくわかりませんが、だんだんと必要はなくなるはずです。実際にはWEBで見ることができるため、必要はないのかもしれません。ただ、慣例的にメーカー側で紙の取扱説明書を廃止することができず、続けているという背景がありそうです)
そうなると、いくら上記のようなCADデータが揃っていたとしても、
紙の取扱説明書と電子取扱説明書を同時に作り完成させないといけない納期的問題
が発生します。
なので、マツダのような取扱説明書を作ることはハードルが高かったし、今でも高いんですよね。
ただしユーザーにとっては、こういう取扱説明書はありがたいし、「やっぱりマツダはよいね」という気持ちになれるんですよね。これって大事です、とても。
これからの自動車取説に望むこと
ただ、今の取説でも正直古さを感じます。
先ほど書きました表示灯の件ですが、取説を見ないと内容がわからないというのはスピード感がなさすぎる感じがします。
今やGoogleレンズなどのように、カメラをものに向けるだけで内容がわかる時代です。きっと、表示灯についても現実はそのように調べている人も多いのではないでしょうか。
それであれば、自動車の取説においても、スマホのカメラで撮影するだけで、該当情報(メーカーが出す正式情報)を見ることができる、異音などもスマホにきかせることで故障内容の大枠判断はできる、などが必要ですよね。
コネクト系のサービスでカバーしている部分もあるのでしょうが、ユーザーにとってはサブスク料金を払ってまでそれらを使うか、というと、そうではないでしょう。
となれば、取説を一歩先に進ませて、ユーザーの利便さを上げる、ユーザーはそれを無料で享受できる、だからメーカーへの信頼度、好感度も上がる、そうした方が良いのではと思います。
マニュアル制作業界というのは、メーカー側の動きが遅い、古いという側面があります。マニュアル制作会社的にはいろいろなことを提案しますし、今の時代に沿った、または先をいくマニュアルを作りたいと思っていますが、メーカー側は「前例がないし」「社内的に準備が整わないし」と、二の足をふむ、という現実があります。
私もいろいろなマニュアルを見てきましたが、あまり進歩がない、という印象を持っています。
そんな中、2010年代初頭に、このような電子取扱説明書を出したマツダは英断だったなと感じます。
だからこそ、マツダさんには、さらに先を目指して欲しいですし、このスタイルは、トヨタ始め普通になりつつあるので、正直当たり前感も出てきているので、まだ見たこともない取説、見せて欲しいです。
というわけで、文章のみでつらつら書いてきました。マニュアルマニアの第一弾記事となりました。今後は、もっと画像やイラストを自分で書いたりして、マニュアルの説明をしていけたらと思っております。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
