はじめに
日本で働く外国人が増えるなか、企業にとって「情報をどのように伝えるか」は、これまで以上に重要なテーマになっています。
特に製造業や建設業、物流業、農業などの現場では、機械や工具、設備、作業用品などを正しく使用してもらうために、取扱説明書や作業マニュアルが欠かせません。
外国人スタッフが使用することを考えて、
「英語の取扱説明書を用意しよう」
「ベトナム語やインドネシア語に翻訳しよう」
と考える企業も多いと思います。
もちろん、多言語化は有効な方法のひとつです。しかし、外国人にも分かりやすい取扱説明書を考えるとき、「日本語を外国語へ翻訳すること」だけを考えればよいのだろうか、と思っています。
実はその前に見直したいのが、元となる日本語そのものではないでしょうか。
日本語の文章を分かりやすくする「やさしい日本語」と、文章だけに頼らず視覚的に情報を伝える「図解」、つまりイラスト。
この2つを組み合わせることで、外国人だけでなく、さまざまな人にとって理解しやすい取扱説明書やマニュアルを作ることができます。
今回は、日本に住む外国人にも伝わりやすいマニュアルを作るための、「やさしい日本語」と「図解」という2つのポイントについて考えていきます。
なぜ外国人にとって日本の取説などのマニュアルは難しいのか?
外国人向けの取扱説明書について考えるとき、
「日常会話ができること」と「マニュアルを理解できること」は同じではない、ということをまず念頭におきたいです。
職場で日本人スタッフと会話をしたり、買い物をしたりできる人であっても、取説に書かれている日本語は難しく感じることがあります。
なぜなら、取説では普段の会話ではあまり使わない言葉や表現が使われることがあるからです。
例えば、次のような文章が考えられます。
「ご使用に際しては、周囲の安全を十分に確認した上で作業を行ってください。」
日本語を母語とする人であれば、特に意識することなく意味を理解できると思います。
しかし、この短い文章の中にも、
「ご使用に際して」
「十分に」
「確認した上で」
「作業を行う」
など、外国人にとって理解しにくい表現がいくつも含まれています。
取説では、このような文章が何箇所にも出てきます。
さらに、専門用語や漢字が増えれば、理解するための負担はさらに大きくなります。
「外国人が日本語を理解できない」というだけではなく、「取説などのマニュアルで使われている日本語そのものが難しい」という視点を忘れないことが、まず大切になります。
文化庁では下記のような資料を作っています。
在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン
こちらでは、外国人にもわかりやすい日本語の作り方が紹介されています。
また、言葉だけに頼らず、ビジュアルを活用する、という考え方もあります。
「やさしい日本語」と「図解」はセットで考える
例えば、「つまみを右方向に90度回してください。」という操作があります。
これを文章だけで説明するより、
「つまみのイラスト+右方向へ向かう矢印」を表示した方が、一目で操作方法を理解できる場合があります。
これは日本語を母語とする人でも同じです。
取扱説明書では、「文章を分かりやすくする」という考え方と同時に、「文章を読まなくても分かる部分を増やす」という考え方も重要になります。
特に図解との相性がよいのが、商品の使用方法や機械の操作方法です。
例えば、「カバーを開けて部品を取り付けた後、カバーを閉じて電源を入れてください。」と文章で説明するのではなく、
① カバーを開ける
② 部品を取り付ける
③ カバーを閉じる
④ 電源を入れる
というように工程を分け、それぞれにイラストや写真を付けてみます。
こうすると、文章を読むことが苦手な人でも、「最初に何をするのか」「次に何をするのか」を視覚的に理解できます。
ここには、「一文に一つの行動」という、やさしい日本語の考え方を活かしていくことをおすすめします。
その方が図解についても作りやすくなるのではないでしょうか。
外国人にも分かりやすい取扱説明書を考えるうえで、最も重要なのは、
「やさしい日本語」と「図解」を別々に考えないことです。
例えば、「使用後は電源を切り、電源プラグをコンセントから抜いてください。」という文章があったとします。
まず、やさしい日本語にすると、
「使ったあと、電源を切ってください。」
「コンセントからプラグを抜いてください。」
となります。これだけでも分かりやすくなりますが、
さらに、
① 電源スイッチをOFFにするイラスト
② コンセントからプラグを抜くイラスト
を上記に加えます。
すると、文章の意味が完全に理解できなくても、図を見ることで、ある程度「何をすればよいか」を理解できるようになります。
文章を簡単にする。そして、図によって補う。
この組み合わせによって、「読む取扱説明書」から、「見れば分かる取扱説明書」へ近づけることができます。
これが、外国人にとっても読みやすい取説の第一歩となっていきます。
図解は「きれいなイラスト」でなくてもよい
日本に住む外国人の方にも読みやすいマニュアル。これはメーカーの仕事だけではありません。たとえば地方自治体の行政の方にとっても必要な仕事です。
個人的な話ですが、つい先日、マイナンバーカードの手続の関係があり、地元の市役所に土曜に行きました。そのとき、手続きの列に並んでいた人のほとんどが外国人の方でした。日本で仕事をしている方達ですので、ある程度日本語は話せます。が、マイナンバーカード関連となると、複雑な言葉も多く、市役所職員の方が、それら外国人の方に説明することに苦労されている様子が見受けられました。
このように、「日本に住む外国人の方にも読みやすいマニュアル」作りは、マニュアル制作のプロ以外の人でも必要になっているのです。
そんなとき、マニュアルに図解(イラスト)を入れたいと考えると、「専門のイラストレーターに細かなイラストを描いてもらわなければならない」となり、困ってしまうのではないでしょうか。
しかし、図解の目的は、きれいなイラストを掲載することではありません。
大切なのは、「使用者が見て理解できること」です。
例えば、
・商品の写真
・シンプルな線画
・矢印
・丸囲み
・拡大図
・番号
・OK例とNG例
といったものも、立派な図解になります。
実際の商品の写真に矢印を加えて、「ここを押す」と示すだけでも、文章だけで説明するより分かりやすくなる場合があります。
反対に、どれだけ美しいイラストでも、「どこを見ればよいのか分からない」「何を伝えたい図なのか分からない」という状態では、取扱説明書として十分とはいえません。
図解ではデザイン性だけでなく、「何を理解してほしいのか」を明確にすることが大切です。
また、今では生成AIを使い、イラストを簡単に作成できるようになりました。商品のイラストとなると難しい部分があるかもしれませんが、行政などのサービスを紹介するイラストであれば、生成AIは大活躍してくれるのではないでしょうか。
ただ、ここで注意しておきたいことがあります。日本で通じる図解でも、海外の方には通じない図解があるということです。
たとえば、NGを示す、❌という記号、日本では当たり前に使います。
が、海外では、そのように使われないことも多いです。そのときには、海外で使われている図解等を確認し、進めていく必要があります。
またセンシティブな部分もイラストにはあります。肌の色、目の色、目の大きさ、など。十分気をつけて作図することも念頭においてください。
外国人向けに見直すことで、日本人にも読みやすくなる
ここまで「外国人にも伝わる取扱説明書やマニュアル」という視点で考えてきました。
しかし、やさしい日本語や図解を取り入れるメリットは、外国人だけにあるものではありません。
例えば、初めて商品を使用する人・新しく入社したスタッフ・作業経験が少ない人・高齢のスタッフ・短期間だけ業務に携わる人、などにとっても、分かりやすいマニュアルになります。
そもそもマニュアルの目的は、「文章を読んでもらうこと」ではありません。
商品やサービス、業務内容について、「正しく理解してもらう」「安全に使用してもらう、遂行してもらう」ことが本来の目的です。
そのように考えてみると、
・文章はできるだけ理解しやすくする
・文章だけでは伝わりにくい部分は図で見せる
という内容は、外国人向けに限った特別なこと、ではないですね。
マニュアルをより分かりやすくするための、基本的な考え方につながります。
最後に
日本に住む外国人が増えるなか、取扱説明書やマニュアルについても、さまざまな人が使用することを前提に考える必要があります。
必要に応じて英語やベトナム語、インドネシア語、中国語などへ翻訳することも重要です。
しかし、その前に考えてみたいことがあります。
今ある日本語の取扱説明書は、本当に分かりやすいのか?
文章が長くなっていないか?
難しい言葉を必要以上に使っていないか?
文章で説明しなくても、図で見せられることはないのか?
外国人にも伝わる取扱説明書づくりの第一歩は、
「やさしい日本語にすること」
「図解によって見えるようにすること」
だと私は思っています。
「外国人に読んでもらうには、翻訳しよう」だけではなく
「どうすれば、できるだけ言葉に頼らず理解してもらえるか?」
という視点を持っていく。
そうすることで、外国人だけでなく、日本人にとっても使いやすいマニュアルへと変えていくことができるのではないでしょうか。
多くの方へ、情報を「正しく伝える」そして、今の生活を少しでも良いものしていただく、そんなお手伝いができるのが、「誰もが見てわかるマニュアル」です。
外国人の方に説明しないといけないことが多い、さまざまな場所で働く方へ。この記事が役立つと嬉しいです。最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
